統一特許裁判所(UPC)に関する情報

最近の動き:

2020年3月20日:ドイツ連邦憲法裁判所(Bundesverfassungsgericht – BvVerfG)は、統一特許裁判所に関する協定(UPCA)のドイツ批准に対する不服申し立てについて判決を言い渡した。BvVerfGは、ドイツ連邦議会が必要な過半数(判決によれば2/3)で投票しなかったことを理由に、統一特許裁判所に主権者権限を付与するための統一特許裁判所に関する協定の承認に関する法案は無効であると宣言した。関連記事はこちらをクリック

2020年7月20日:英国は統一特許裁判所に関する取り組みからの脱退の最終準備を行い、批准の撤回が理事会事務局に提出された。

2020年11月26日:ドイツ連邦議会(Bundestag)は、統一特許裁判所に関する協定とその仮適用に関する議定書の立法案の投票をおこない、可決した。可決は、連邦憲法裁判所が2017年に可決された先の法案が無効であることを宣言した今年3月20日公表の判決で定めている要件である連邦議会議員の3分の2以上の賛成多数で行われた。

2020年12月18日:ドイツ連邦議会(Bundestag)での可決の後、ドイツ連邦参議院(Bundesrat)(ドイツ16州の意思を反映)は、統一特許裁判所に関する協定とその仮適用に関する議定書についての立法案について投票し(必要な3分の2以上の賛成多数で)可決した。

批准法に関する議会決議はこれにより連邦大統領に送付され、署名の上、連邦法官報に公告されることになる。ドイツはこれによって批准手続きへと明確に前進した。

2020年12月21日:ドイツ連邦憲法裁判所(Bundesverfassungsgericht – BvVerfG)は、ドイツが統一特許裁判所(UPC)協定およびその仮適用に関する議定書を批准することを可能にする法律案に対して、2件の憲法上の不服申し立て(第1件BvR 2216/20および第2件BvR 2217/20)が提出されたことを確認した。

BVerfGは、2017年と同様に、憲法上の不服申し立てがされている間は、本法律への署名をしないよう大統領に求めることができる。

現時点では、原告の身元や憲法上の不服申し立ての根拠は不明だが、欧州のソフトウェア企業やフリーソフトウェアとオープンソース(FLOSS)コミュニティに対して、憲法訴状のクラウドファンディングに緊急に寄付するよう呼びかけていた「自由情報基盤財団(FFII)」が、少なくとも1つの憲法上の不服申し立てを提出していると推測できる。

もしBVerfGが速やかに申し立てを棄却しなければ、BVerfGは提訴の決定に相当の時間(前回と同じく3年程度?)を必要とし、それに伴ってUPCの取り組みにも遅れが生じる可能性がある。

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BVerfGが速やかに申し立てを棄却した場合は、ドイツの批准手続きが完了すれば、2021年に統一特許裁判所を設立するための最終的な準備段階を踏むことができ、その結果、2022年にはUPCの活動を開始できるとする向きもある。

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UPCA第7条(2)では、ロンドンをパリ、ミュンヘンとともにUPCの中心となる3つのセクションの一つと定めている[1]。英国(ロンドン)、フランス(パリ)、ドイツ(ミュンヘン)は、「欧州特許が最も多く有効であった3つの国」であるため選定されたものである。

英国が正式にUPCAから脱退したため、UPCの中央部で生命科学、化学、冶金を担当するロンドンを所在地とするセクションは移転する必要がある。

ロンドンセクションが自動的に別の所在地に置き換わることはなく、これには他の加盟国の全会一致によるUPCAの改正が必要となる。

現在、UPCの中央部の所在地としてロンドンに代わる候補は2つあり、ミラノとアムステルダムがその候補地となっている(再構築後の枠組みの下で、パリまたはミュンヘンがロンドンの裁判所の医薬特許に関する管轄を代替的に引き受ける可能性があることにも注意)。

2020年9月3日には、イタリア政府がUPC中央部をロンドンからミラノに移転するよう公式に要請している。

2017年11月にはEU外相が、以前ロンドンに置かれていた欧州医薬品庁(EMA)の新所在地としてアムステルダムを選んでおり、ミラノはそれに最も近い次点であったことは注目に値するといえる。これは、両最終候補地が同じ票数で同点に終わった後、抽選によって決定されたという経緯がある。この前例は、ロンドンから移転の必要のあるUPC中央部の今後の所在地の選択に影響を与える可能性がある。

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出典:

https://www.europarl.europa.eu/RegData/etudes/ATAG/2020/649575/IPOL_ATA(2020)649575_EN.pdf

https://www.europarl.europa.eu/thinktank/it/document.html?reference=IPOL_IDA(2019)596800

https://www.unified-patent-court.org/news/federal-constitutional-court-decision

https://www.unified-patent-court.org/news/uk-withdrawal-upca

https://www.unified-patent-court.org/news/upc-progress-german-ratification

https://www.bundesrat.de/DE/plenum/bundesrat-kompakt/20/998/10.html#top-10

https://www.managingip.com/article/b1pslqt21vn3fn/new-upc-complaints-filed-in-germany

https://www.juve-patent.com/news-and-stories/legal-commentary/breaking-german-upc-legislation-challenged-again-by-constitutional-complaints/

[1] ロンドンのセクションでは、冶金学、化学、製薬、生命科学など関連する事案を管轄し、ミュンヘンのセクションでは、機械工学、照明、加熱、武器、発破、パリの場合は繊維、紙、建設、電気を管轄する

 

MATTEO MACCAGNAN

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