EPO審判 トマト事件、ブロッコリー事件、胡椒事件、に関する新エピソード
前回、この問題について触れた記事(asia.studiotorta.com/en/editorials/discussion-on-patentability-of-plants/)では、欧州特許庁(EPO)の審判部(BoA)の事件T1063(「胡椒」事件)の判決を受けて、本質的に生物学的プロセスによってのみ育成された植物は特許性を持つと解釈されるべきであると解説いたしました。事件T1063では、特許権者は、EPC規則28(2)がG 2/12、G 2/13(「トマトII」事件/「ブロッコリーII」事件)で示されたEPC第53(c)条の解釈と矛盾しないかどうかを明確にするために、拡大審判部(EBA)へ質問の付託を求めており、実際、G 2/12とG 2/13では、EPC第53条(c)に基づき動植物の生産のための本質的に生物学的なプロセスの非特許性は認められないとする決定が下されていました。EPC第53条(c)に基づく植物や動物の育成のための本質的に生物学的なプロセスの非特許性は、排他的にそれによって得られる物には及ばないと決定されていました。しかし、事件T1063で求められた拡大審判部への付託請求は却下されていました。
本質的に生物学的プロセスによって育成された植物が特許可能かどうかについては、過去数年にわたって多くの議論がなされてきたため、EPOのAntónio Campinos会長は、その後、自ら拡大審判部への付託を請求しており、この度、その付託が認められました。
そして、5月15日、拡大審判部はG 3/19において、従前のEPC第53条(b)の解釈を覆す意見を発表しました。つまり、EPC第53条(c)はEPC規則28(2)と組み合わせるとき、本質的に生物学的プロセスによってのみ育成された動植物を特許性から除外するとしたのです。意見書の全文はこちらをご参照ください。
決定に関する意見の変化について、EPOは理由を以下のように述べています。
規定の意味は時間の経過とともに変化したり、進化したりするものであり、法律上の規定の特定の解釈は、絶対的に不変のものであると考えるべきではない。EPC規則28 (2)の導入、この規定の準備作業、採択の経緯、そしてEPC締約国の法制度の変革は、EPC第53条(b)のダイナミックな解釈を可能にし、また実際にそれが求められていたといえる。
また重要な点として、今回の拡大審判部の決定は、EPC規則28(2)が施行される前の2017年7月1日以前に出願された特許には遡及的な影響を与えないということが挙げられます。この決定が、照会が保留されていた間に係属していた特許出願にどのような影響を与えるかは、今後の動向が注目されます。
また、今回の決定が最終的なものとなりうるかという疑問も一方で残っています。
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ALESSANDRA BOSIA
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